純情うさぎとフルムーン





「ただい……」

「じゃないだろ。“ごめんなさい”は? 」


何だかもやもやしながら玄関のドアを開けると、お母さんモード全開の颯ちゃんが仁王立ちでお出迎え。

「……颯ちゃん。私もう大人だよ? 」

「そんなことは分かってる。寧ろ、だから危ないんじゃないか。若い大人の女の子が、夜道を一人で歩くだなんて。残業は仕方ないけど、連絡してくれたら迎えに行くのに」

何だかいろいろ矛盾しているお小言を聞き流して、パタパタスリッパを鳴らしながらリビングに逃げた。

「大丈夫だってば。颯ちゃんも忙しいのに、そんなことさせられないよ」

「そう思うなら、次から電話でもメッセージでもくれ。やきもきしながら鍋抱えてる方がよっぽど時間勿体ない」

容易に想像できてしまうのが申し訳ない。
イケメンといえぱ誰よりイケメンな颯ちゃんに、そんなことさせておきながら吹き出すなんて。

「まったく。変質者だっているかもしれないだろ。それにそんなんじゃなくたって、可愛い妹に何かあったらと思うと気が気じゃなくなる」

「……ごめんなさい。……ねえ、颯ちゃん」

「ん? ほら、飯まだだろ。温めてくる」

声を掛けておきながら、その次は言えなかった。
帰宅途中、男の子に話しかけられたことも、彼の本当の兄弟のことも。


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