純情うさぎとフルムーン
『……すき』
いきなりの告白シーンが気まずい。
抱き合う男女を見ないようにリモコンに手を伸ばし、電源を切る。
颯ちゃんが好む番組とは思えないから、イライラやもやもやを誤魔化す為に流していたのだろう。
「……あのさ、美月」
「……どうしたの? 」
チン、とレンジが鳴ったとたん、ミトンを装置した彼は、お皿をテーブルに並べたと同時にらしくなくもたもたしている。
「……航大、帰ってくるよ」
驚いて、ほかほかの湯気に指を直撃させてしまう。
「えっ……あっつ……! 」
「あー、もう。大丈夫か? 」
颯ちゃんは苦笑したものの、どんくさいのを馬鹿にしたりしなかった。
兄である彼もまた、嬉しい反面気まずく思っているのかもしれない。
何せ、もう何年も会っていないのだ。
妹みたいな幼なじみではなく、血の繋がった実の弟に。
「そっか、よかったね」
「ん……。美月は大丈夫か? たぶん、しばらくは一緒に暮らすことになるけど」
私と颯ちゃん二人では、広すぎるくらいの家だ。何より、もう一人の幼なじみの帰省は楽しみなはず。
「当たり前だよ。それに、ちょうどね、いつまでも颯ちゃんに甘えてばかりじゃいられないなって思ってたとこだったし。今更遅すぎるけど」
「何言ってるんだ。お前を追い出したいわけじゃない。あのな、通勤だけでも心配なのに一人暮らしなんかさせられるわけないだろ」
「過保護すぎるって」
ふうふうしながらスプーンを口に運び、それでも熱いと言いながら頬張る。
そんな私に今度はちよっと馬鹿にしたみたいに笑って、なおも彼は首を振った。
「だーめ。とにかく、これはその話とは別なの。……もし、何かあったら言えよ。あいつも、少しは大人になってると思うけど」
「うん」
何の文句もないし、言える立場じゃない。
それでも、やっぱり不安だ。
――あんなに嫌われてたから。