とろけるような、キスをして。
先生の授業は、わかりやすくて面白かった記憶がある。
黒板は赤や青のチョークも使うため数学の授業にしてはカラフルだった印象。
そのためノートを取るのが楽しかった。
「んー、国道通ってくか」
懐かしい記憶を呼び起こす私とは反対に、先生はカーナビに美容室の住所を打ち込んで経路検索をしていた。
どうやら大体の場所はわかるようで、どこから行けば道が空いているかを考えているらしい。
私は免許も持っていないから、ちんぷんかんぷんだ。
「私そういうのよくわかんないから先生の運転しやすい道でいいよ」
「ん。りょーかい」
先生は私がシートベルトをしたのを確認して、滑らかに車を発進させた。
移動中は思いの外先生も集中しているのか、喋らずに静かな空間だった。
タクシーの時と同じように車窓から移り変わる景色を眺める。
色とりどりの紅葉は、東京ではあまり見られない光景だった。
この街に住んでいた頃は、毎年見ていたのに。
その懐かしさに目を細める。
「……東京暮らしはどう?」
「……うん。そこそこ」
「そっか」
視線を戻すことなく答えると、先生も何も言わずに私に景色を楽しませてくれた。
そのうちにたどり着いた美容室で振り袖を脱ぐ。
髪の毛は飾りだけ取って、私服でも悪目立ちしない落ち着いたヘアアレンジに変えてもらった。
再び車に乗って、今度はホテルに振り袖と荷物を預けに行った。
と言っても、一泊だから荷物なんてほとんど無くて。チェックインにはまだ時間があったため着替えと振り袖をフロントに預けるだけで終わる。