とろけるような、キスをして。



「ここ、過去問によく出てくるから今年の入試にも出るかもしれないからなー。しっかり公式と解き方頭に入れとけよー」



 修斗さんの気の抜けるような声に、生徒たちがペンを走らせる音が微かに聞こえる。


どうやら問題の解説をしていたようだ。


 こちらからは修斗さんの姿はちらりと見えるけれど、生徒たちの姿は死角になっていて見えていない。つまり向こうからも同じだろう。


しかし修斗さんは当たり前だが集中しているため、私がいることには気が付かないまま淡々と授業が進められていく。


 右手にチョークを持って、左手に教科書を持って。


前髪が目に掛かるたびに右手の小指で荒っぽく分ける姿、そして伏せた目がとてもセクシーで、なんだか見ているだけで胸が高鳴る。


 ……かっこいいなあ。


そういえば、修斗さんが教師として働いている姿、こっちに戻ってきてから初めて見たかもしれない。


 実際に生徒の前にいる姿は七年前よりも輝いて見えて、その真面目な表情にドキドキが止まらない。



「じゃあ、次の問題解いてみて。」



 黒板に次の問題を書いた修斗さんは、粉が付いた手を払いながら教室を見渡す。


 そしてふと、視線を感じたのかこちらを向き、その目が大きく見開かれた。



……あ、バレた。



思わずひらひらと小さく手を振ってみると、修斗さんは振り返そうとしたものの、授業中なのを思い出して直前で手を止めた。


 その代わり、にっこりと笑いかけてくれた。


私もそれに笑みを返し、もう一度手を振ってその場を離れる。


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