とろけるような、キスをして。



 そして、数段降りた音と共にその足が見えた時に。



「……あれ?みゃ……じゃなかった、野々村さん?もしかして、今の聞いてた?」



 目が合って、その照れたような表情にそっと頷いた。


胸がいっぱいで、何を言えば良いかがわからなくて。そっと見つめ返す。



「……ちょっと、こっち」



 周りに誰もいないのを確認して、修斗さんは私を連れて近くの備品庫に入る。


埃っぽくて、真っ暗な中。



「泣いた?立花に何か言われたのか?」



 焦ったように、私をギュッと抱きしめる。


拭った涙は滲んだだけで、別に泣いてないのに。



「……ね、修斗さん」


「ん?」


「……七年も前から、私のこと好きでいてくれてたの?」


「……やっぱりそこも聞かれてた?」



頷くと、



「マジか。本人に言うのは恥ずかしいな……」
と声が細くなる。


「……今日、仕事終わったら家行って良い?」


「良いけど……」


「ちょっと行くの遅くなるかもしれないんだけど、その時にゆっくり話すよ。今はもう行かなきゃいけないから、時間無いんだ」


「そっか、わかった」


「でも、ほんの少しだけ充電させて」



 そっと重なった唇は、数回角度を変えて触れて、そのまま離れた。



「続きは後で。……じゃ、先に出るわ」


「うん」



 少し時間を置いてから同じように備品庫から出ると、あたりまえだが修斗さんの姿はどこにもない。


まだキスの感触が残る唇を、そっと指でなぞる。


その時に視界に入った腕時計。



「……やば、仕事戻らないと」



 思っていたより寄り道してしまった私のペットボトルのお茶は、もう温くなってしまっていた。



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