とろけるような、キスをして。
修斗さんと一緒に住むようになって一ヶ月。
ふと、映画のワンシーンを見つめながらとあることに気が付いた私は、隣でコーラを片手に真剣にテレビを見つめる修斗さんに視線を向けた。
「ねぇ修斗さん」
「ん?」
「私思ったんだけど」
「うん」
「私、修斗さんと結婚したら深山 美也子になるわけでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「みやまみやこって、"み"と"や"が続くからなんか変じゃない?」
「……そうか?」
ようやくこちらに振り向いた修斗さんは、何言ってんだコイツとでも言いたげに首を傾げる。
「いや、まぁ語感っていうかなんとなくの話だけど」
改めて考えたら、みやまみやこってなんか語呂が悪いと言うかネタっぽいと言うか……"みや"が多すぎて違和感がある。
「んー俺はなんとも思わないけど……でも気になるなら、俺が婿入りするか?」
「……へ!?」
「俺、別に自分の苗字にこだわり無いし。野々村 修斗ってのもなかなか良くない?え、良くない!?深山 美也子も俺のモノって感じで良いけど、野々村 修斗になるのもみゃーこのモノって感じで俺は好きかも。うん、アリ」
……。
深山 美也子、野々村 修斗、野々村姓になるのアリだな……いいかも。なんてぶつぶつ呟きながらどっちがいいか真剣に悩み始めた修斗さんをボーッと見つめた。
……なんだろう……いや、修斗さん何言ってんの?
そう思ったら、なんだか私が悩んでるのが馬鹿みたいに思えて。
思わず小さく笑う。
「……やっぱ私が深山になる」
「え?そう?俺今結構野々村に傾きかけてたんだけど。もう気持ちは野々村 修斗なんだけど」
「だーめ。だって私も深山 美也子って案外悪くないかもって思ったから」
「え?心変わり急すぎない?どうした?」
「いーの。ほら、映画の続き!」
「みゃーこが話振ったくせにー……まぁいいか」
再び視線を戻したテレビでは、映画が進んでしまってもう話の内容がわからない。でも修斗さんはまた真剣に見始めたし、私ももうちょっと見てみようか。
"深山 美也子も俺のモノって感じで良いけど、野々村 修斗になるのもみゃーこのモノって感じで俺は好きかも"
そんなこと言われたら、私の悩みなんてどうでもいいやって思っちゃうじゃない。
私はとっくに修斗さんのモノなんだから、語呂が変でも気にする必要なんて全く無いんだった。
案外覚えてもらいやすいしわかりやすくて良いかもしれないし。なんて、ね。
「どうした?機嫌良いな?」
「うん。なんか幸せだなって」
「変なやつだな。でも俺も幸せ」
【みゃーこのちっぽけな悩み】End,