とろけるような、キスをして。
「───帰って来いよ」
「……え?」
それは、情けないくらいの弱々しい声だった。
「今すぐ、帰って来いよ」
対称的に、とても力強い声が正面から聞こえて、その声に引き寄せられるように視線を戻す。
先生は、何故か今にも泣きそうな顔をしていた。
苦しそうで、切なそうで。
とても、悲しそうな顔。
「俺は、あの時お前の手を離したことを、ずっと後悔してる」
「……」
「泣きそうなのに強がって、全身震えるのに平気なふりして一人で抱え込んでるお前を。俺の手の中に閉じ込めておけば良かったって、ずっと後悔してる」
「教師とか、生徒とか、そういうの関係無く。俺がお前を守ってやりたかった。あの時、教師っていう自分の立場を気にしてお前の手を離したことを。今でも後悔してる」
先生はそう言って立ち上がると、呆然としている私の隣に腰掛けてそっと身体を抱き寄せる。
ふわりと香るのは、先生が付けている香水の香りだろうか。
ほんのりと香る上品な甘さ。それが今は、とても心地良い。
「……綺麗事に聞こえるかもしれないけど。薄っぺらいって思うかもしれないけど。今度こそ、俺が守ってやる。お前の手を離したりしない。一緒にいる。一人にしない。……だから、こっちに帰って来いよ」
力強いのに、優しい声。
それは水のように胸に染み渡り、私の固まった心をほぐす。
ずっと、心に押し込めていた想いが涙となって溢れ出した。
頬を伝ってそのまま落ちる大粒の涙。
先生の服を汚してしまうから、離れたいのに。
先生はむしろ私をきつく抱きしめる。