とろけるような、キスをして。



「先生、代わってだって」


「俺に?」



 頷いて先生にスマートフォンを渡すと、二人は電話越しに喋り始めた。


時折先生が晴美姉ちゃんにお礼を言ったり"うるさいうるさい"と言っていたり、どうやら会話は盛り上がっている様子。


全く内容のわからない声を聞き流しながら、私は焼けたお肉を先生のお皿に入れつつハイボールを飲む。


 五分ほどで返ってきたスマートフォンを受け取り、



「もしもし」



と電話に出ると



『美也子、深山先生にも定期的に連絡してあげてね。ずっと美也子のこと心配してたんだから』



と、いかに先生が私のことを心配していたかを喋り出す。


 どうやら晴美姉ちゃんも二次会の途中のようで、たっぷりのお酒を飲んでいるようだ。


酔うといつも以上に饒舌になる晴美姉ちゃんに、これ以上真剣な話は出来そうにないと思い、適当なタイミングで電話を切った。



「ごめんね先生。晴美姉ちゃん大分酔ってたみたい」


「そうみたいだな。話したいことは話せた?」


「ううん。あそこまで酔ってたら多分明日には何も覚えてないだろうから、また改めて電話するよ」


「そっか。それがいいな」



 焼肉は先生が言っていた通り、とびきり美味しいお肉だった。


会社の飲み会はただ苦痛なだけだけど、先生と二人でのこの時間はとても楽しい。



「先生、ありがと」


「ん?何が」


「今日、先生のおかげですごく楽しかった。先生にまた会えて良かった」


「……みゃーこ」



 私もお酒を飲み過ぎてしまったのだろうか。
普段、こんな改まって人にお礼を言うことなどないんだけど。


先生は照れてしまったのか、なんだか顔が赤い気がする。



「照れてる?」


「照れてない!」


「うそでしょ、顔赤いよ」


「えっ」



 ペタペタと触ってから仰ぐように手を動かす先生を見て、小さく吹き出すように笑ってしまう。


 先生も最初は笑うなと言っていたものの、次第に面白くなってしまったのか、しばらく二人で笑いが止まらなかった。


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