とろけるような、キスをして。



 恥ずかしくて下を向きつつも、先生の反応が気になってちらりと覗いてしまう。


すると先生は



「ちょっと、待って。やばい、想像以上」



と私の視界を遮るように手を伸ばしてきた。


 目の前が真っ暗に染まる。指の隙間から先生の顔を覗くと、ふんわりと赤く染まっていて。



「……修斗さん」



 もう一度呼ぶと、今度は真っ赤に染まった。



「修斗さん、照れてるの?」


「……ちょっとそれ以上言わないで。事故る!」


「安全運転でお願いします、修斗さん」



 やっぱり照れているみたい。先生をからかっているうちになんだか私も呼び慣れてきて。滑らかに口から飛び出るようになった。


 そうしたら、今度は呼ぶ度に照れる先生が面白くなってしまって。何度も呼んだ。



「ほら、もうすぐ着くぞ」



 先生は私から逃れるように前を指さす。
大きい本屋さんだから、遠目からでももう看板が見えている。あと五分もあれば着くだろう。



「とりあえず、車降りたらそれでよろしく」


「うん、わかったよ修斗さん」



 ダメ押しのように名前を呼ぶと、もう先生も呼ばれ慣れてきたのか頭を撫でられただけだった。


 でも、髪の毛の隙間から見える耳が少し赤く染まっていたから、やっぱりまだ照れている様子。


可愛いなあ、なんて。大の大人に向かって思うなんておかしいだろうか。


まして歳上の先生相手に、だ。


 地下駐車場に車を停めると、二人並んでエレベーターに乗る。


 まず目的である文具コーナーに向かい、履歴書と職務経歴書がセットになった用紙を見つけ、それを手に取った。これだけ買ってすぐ終了、というのも少し寂しい話。


どうせなら他のコーナーも見てみようか。


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