とろけるような、キスをして。



「あ、はい!今行きます!」



 先生は返事をしてこちらを心配そうに見つめる。



「ごめんみゃーこ。行かなきゃ」


「うん。私は大丈夫。歩いて実家に行ってるね」


「わかった。ごめんな。後で連絡するから」



 頷いてからじゃあね。と手を振って背を向ける。


実家に行くのは、片付けと掃除のためだ。


 こっちに戻ってきたら、私はあの広い三階建ての家に一人暮らしすることになる。


必要なものが揃っているか改めて確認したいし、掃除もしたい。


電気が通っていないから昼間しかできないし、ちょうど良い。


 校舎を出て、久しぶりに高校から実家までの道を歩いて進む。


 懐かしい銀杏並木。地面には散った葉が絨毯のように広がっているものの、車や人に踏みつけられて所々黒く変色していた。


 銀杏並木を抜けると国道に出る。そこを曲がって数メートル歩いた後、郵便局やスーパーを横目に信号を三つ渡って自動販売機の横を通って。


コンビニがある曲がり角を左に曲がれば。



「……着いた」



 先月ぶりの実家。鍵を開けて中に入る。


 通学路を通って帰ってきたからか、無意識に「ただいま」と発していた。


当然返事は無い。けれど悪い気はしなかった。



「……やるか」



 早速家の中をぐるりと見渡して、腕捲りをした。


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