とろけるような、キスをして。



***



 元々掃除は嫌いじゃない。だから始めると時間を忘れてしまったりする。
先ほどの面接も然り、今の掃除も然り。


 何かに熱中すると、周りが見えなくなってしまうのは昔からの悪い癖だ。


ふと気が付いたのは、スマートフォンが着信を知らせた時だった。



「……もしもし?」


『あ、みゃーこ?今どこ?』



 それは先生からの電話。



「まだ実家だけど」



 答えて何回か会話をしているうちに外から車の音がした。


 先生が来たのか。そう思って電話しながら玄関から顔を出すと、案の定そこにはスマートフォンを耳に当てた先生の姿が。


ひらひらと手を振ると、その端正な顔立ちは急にムッとした表情になる。



「こら、誰か確認してから出ないと危ないだろう」



 電話を切った先生は、開口一番にそう叱ってきた。



「ごめん。先生来たのかなって思って」


「うん。そうだとしても最近は物騒なんだから、ちゃんとインターホン出てからにして」


「はぁい」



 素直に返事をしてから、「入る?今掃除してるから埃っぽいかもしれないけど」と家の中を指さす。



「うん。お邪魔します」


「どうぞ」



 玄関に入るように促して、私は家の中に戻った。


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