どこまでも
「さすがに七年はないだろって自分でも思うけど……別れたつもりはなかったよ。迎えに来るつもりだった」
「な、にを……言って」
「まあ信じないだろうけど」

 なあ、と囁きながら禄朗の指が優希のそれを撫でていく。



 持ち上げて口元へ運び唇に触れた。その艶めかしさにとっさに手を引っ込めようとしたが、禄朗は離してくれなかった。

「っ……」
「誰と?」
「誰とって、禄朗の知らない人」
「ふうん、可愛いの?」
「うん、可愛くて優しい人。だから」

 もう禄朗と関係を持つことはできないと言おうとした。ここで踏ん切らなきゃダメになると、本能が訴える。








 ボロボロになっていた優希に手を差し伸べ救ってくれた明日美を裏切ってしまう。彼女がいなきゃ、今頃どうなっていたかもわからない。

 半分死人のように過ごしていた彼を見ていられなかったのか心配した友人に紹介され、自棄になっていた優希を見捨てずそばにいてくれた明日美を裏切れない。

 だけどそんな決心は砂の上の城のように、もろく儚いこともわかっていた。









 「関係ない」と禄朗は指輪に舌を這わせた。ざらりとした感触に官能が目を覚ましかける。とっさに離しかけた手をきつく捕まれ、視線に囚われる。

「だから何だっていうんだ?」

 彼を見つめる瞳の色が獰猛に光る。体中から発散されるオスの気配に優希は息を飲んだ。








 だめだ___。


 優希は降伏するかのようにうなだれた。禄朗がそばにいて逆らえるはずがないのだ。どんなに虚勢を張ったところで、本心はもう。

「だから……」

 ギリギリのラインを揺れながら震える声で振り絞る。

 『だから、こんなことはやめよう』___そう言わなければならないのに。









「なあ」

 甘く耳をかむような声で囁きながら、発情を含んだ手が腕を伝い体をたどりだす。

 腰まで降りてグっと抱かれたとき、優希は今まで自分が築いてきたものが崩れようとしていることを理解した。

「優希」
「……っ」
「行こうか」








 今守るべきものが何なのか。それが一瞬でわからなくなり、目の前から消えていく。耳朶に直接注ぎ込まれた欲望になすすべもない。

 誘われるまま立ち上がり、禄朗の後をついて店を出る。
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