どこまでも
 優希の選んだピンクのワンピースを着て入学式を楽しみにして笑っていた花が、今では素敵なお嬢さんだ。あの時と似ている桃色のワンピースを着て目の前に立ち、優希と向き合っている。

「あのワンピース、パパ好きだったでしょ。似たのを探したの」
「うん、よく似合ってて大好きだった。花……綺麗だよ」

 花の姿が涙の向こうにかすんでいく。年を取ったからか涙腺が緩んでしまったようで困る。鼻をすすると花はティッシュを渡してくれて、「泣き虫だね」と笑った。

「花があまりにも美人だから嬉しくて」

 明日美と優希の遺伝子が入り混じった不思議な存在。向かい合っていると、どこかしら自分にも似ていると思ってしまう。

 花との再会で泣いている優希を温かく見守ってくれている男性が、明日美の再婚相手だった。

「はじめまして」

 グスグスと鼻を詰まらせた優希に笑いかけながら、「善本(よしもと)です」と挨拶する。人の良さをそのまま名前にしたような人だった。

「明日美と花がお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ美人な親子に華をもらっていますよ」

 過去に与えた罪には触れず、善本はニコニコと笑みを浮かべている。

「それにしても綺麗な人でビックリしました」
「綺麗って?」
「優希さんですよ。すごい美形の素敵な人だとお伺いしていたので」

 そんな風に話していたのか。もういい中年だというのに。褒められる容姿に優希は苦く笑った。

「苦労してないってことでしょうかね」
「そんなことないでしょう」

 笑った先の視線が、すべてわかっていますよと告げていた。
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