どこまでも
「須賀さんはこれそうなの?」

 間に割って入った明日美は、あたりをキョロキョロと見渡す。ついに禄朗との対面を果たすのだ。

 以前画廊の前で会ったことがある人だと、前もって話した。

 優希のパートナーが男性だと教えても、明日美はそんなに驚かない。男だろうが女だろうが、幸せならよかったと明日美はおおらかに受け止めてくれたようだった。

 そんな懐の大きい人だから、優希とも結婚生活を送れたのだろう。今更ながらその懐の大きさを思う。

「来るって言ってたんだけど……あ」

 遠くから人波を泳ぐように、かき分けてくる人がいる。離れていてもわかる圧倒的なオーラ。すれ違う人が一瞬気を取られ、振り返っているのが見て取れた。

「禄朗!」

 手をあげると、気がついた禄朗は少しだけ足を早めて近づいてくる。

 みんなの前に立つと、堂々とした様子で「はじめまして」と艶やかに笑った。

 年を重ねても禄朗の人を引き付ける力は衰えない。さらに増した魅力に、たくさんの人が釘づけになっている。

「はじめまして、須賀禄朗です」

 にこやかに笑いながら抱えていた大きな花束を花に渡した。

「成人おめでとう」
「ありがとう、ございます」

 受け取った花も驚きで瞬きを繰り返す。

 一抱えもある大きな花束には様々な色が咲き乱れていた。これからの人生が美しい色どりに囲まれていますように、との願いが込められている。

 さすが禄朗だった。昔からそういうマメさはすごいと思っていたけど、目の当たりにするとキュンとときめいてしまう女の子の気持ちが分かる。優希だっていつもときめかされている。

「遅くなってすみません。今日はよろしくお願いします」

 握手を求められてはっとしたように、明日美は「元妻です」と手を差し出した。そこに嫌味だったり自分を誇示するような意地悪さはない。そのままを口にしただけだ。

 だけど禄朗がその言葉に一瞬つまったのを優希は見逃さなかった。何年たっても、それは彼の心に影を落としている。

 表情を崩さず「明日美ちゃんですね」とメラメラする気持ちごと、がっちり手を握る。

 火花を散らす様に握手を交わす二人に割って入った善本は、明日美の手を禄朗から離しながら自らも自己紹介した。見た目の穏やかさとは違って、なかなかのつわものらしい。
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