どこまでも
「じゃあ、行きましょうか」

 席を予約しているレストランへ向かう。自然と禄朗の隣に並んだ優希に、明日美はクスリと笑った。

「どうした?」
「ううん。昔、須賀さんの姿を見たとき、嫌な予感がしたけど、当たっていたんだなって。その時は全然知らなかったんだけど、きっと気がついていたんだわ。二人がお似合いだって」

 どう返せばいいか困惑した笑みを浮かべた優希に、禄朗が乗っかかる。

「俺こそ幸せそうな家庭をみせつけられたみたいで、しばらく凹みましたよ」
「そうなの? それは嬉しいな」

 いつになく好戦的な明日美に、優希は冷や汗をかいた。

「ま、まあ、昔の話だし」
「ゆうちゃんにとってはそうかもしれないけど、ねえ。私たちにしてみれば気が気じゃなかったわよね?」
「そうですね。どうしてやろうかなとは思いましたけど」

 禄朗もニッコリと笑いながら、明日美と対戦する。なんだこの殺伐とした空間は。

 話を変えようとして、優希は善本へ話題を振った。

「予約までしていただいてありがとうございます。とてもおいしくて、席を取るのも難しいって聞いていましたが」

 だけど善本までもが挑戦的な視線を優希に向けた。

「大切な愛娘の成人記念ですからね。ありとあらゆる手段を使ってでも用意しますよ」
「そ、そうですね」

 大人たちがバシバシと火花を散らしている中、花だけが嬉しそうにニコニコと笑っている。花束の甘いにおいをかぎながら、「楽しいね」と嬉しそうだった。

「パパにも会えたし、パパの大切な人もステキな人だったし、花は幸せだわ」

 男の人と関係を結んだ優希を軽蔑するかと思ったけど、花もそれをすんなりと受け止めてくれたらしい。パパが幸せならそれでいいんだよと言ってくれたことで、今回の計画が実を結んだ。

 善本の決めたレストランは評判のお店らしく、雰囲気も食事のレベルも最高に素晴らしかった。

 和やかに食事をし、それぞれの近況を話す。善本はアートにも造詣が深いらしく、禄朗のことは昔から注目していたという。

「まさかご本人に会えるとは思っていなかったので、夢のようです」
「そうなんですか?嬉しいな、ありがとうございます」

 花はそんな大人たちを見守るように、ニコニコと笑っている。
< 104 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop