どこまでも

 強い空腹を感じていい加減何か食事をしなければと体を起こすと、全身に散らばる情事の痕が生々しく浮かび上がっていた。

「……やらしい体になっちゃったね」

 禄朗はベッドに横たわったままひとつひとつ、自分がつけた痕を指でたどった。施されるその刺激でさえ敏感に感じてしまうコントロールの効かない身体に不安さえ抱く。

「責任取ってよ」

 ため息交じりに訴えると、彼は面白そうに瞳を輝かせ気軽に答えを返してきた。

「優希が望むならいいよ。責任取る」
「またそうやって適当なこと言って」





 適当な言葉でその気にさせておきながらあっさり捨てていくのだ。禄朗という男は。嫌というほど学んできた。

「えー、本気で言ってるんだけどな」

 悪びれることなく続ける彼を軽くにらみつけると、むき出しのお尻を軽くたたいた。引き締まった尻肉がぺちんと軽い音を立てる。

「いて」
「よく言うよ。それよりお腹すいた。……何時?」

 ベッドサイドに転がって落ちた時計を拾って見るとどうやらまだ深い夜の時間帯だった。あれからそんなに経ってないのかと首を傾げつつ、携帯の電源を入れて確認して驚いた。

 日付がかなり進んでいる。どうやらベッドの上だけで二晩過ごしてしまったようだった。おなかがすいて当たり前だ。

 それに、明日美からの着信とメールが何件も届いている。

 無理やり電話を切って以来何の音沙汰もなく電話も通じなくなっていて、きっとものすごく心配しているだろう。彼女が不安に過ごすだろうことを全く考えてあげられなかった。

 その上、名前を呼ばれたというだけで明日美にひどく嫉妬してしまった。彼女には何の落ち度もないのに。

「優希?」

 携帯を見つめたまま固まった優希を後ろから抱きしめて、禄朗が囁いた。

「明日美ちゃんに連絡する?」
「……いや、いいよ」

 今更電話したところでどうにもならない。どんな顔をして話せばいいのか想像もつかなかった。

 禄朗に会おうと決めた瞬間から穏やかで幸せと思えた日常は手放したのだ。
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