どこまでも
「えっ?」

 聞き間違えかと思って振り返って問いかけると禄朗の真摯(しんし)な視線とぶつかった。これは本気な時の目だ。

「アメリカ?一緒に、って、本気で……?」
「そう」

 あの時ほしかった言葉を今、言うのか。

 ほかの女性と結婚して普通と呼ばれる穏やかな日々を送っている今。行きたい、と思う。禄朗と一緒に、今度こそ行けるのなら何を捨ててもいい。

「日本に帰ってきたわけじゃないんだ?」
「今は一時帰国なんだよな。実はこれから個展を開けるかもしれないってなって……どうしても優希に会いたくなった。おれの写真にはおまえが必要なんだ」

 そっと優希の手を取り、甲に唇を落とした。映画の中の王子が求愛するかのように、優しく。

「昔は怖くて一緒に行こうって言えなかったけど……今なら言える。お前を連れてくよ」
「……連れて、行ってくれんの?」
「お前が望むなら」

 ぎゅうっと厚くてたくましい胸の中に閉じ込められた。当てた耳からどくんどくんと禄朗の命の音が聞こえてくる。彼の緊張が伝わってくるようだった。

「……そうだね」

 この先二度と離れないでいられるのなら、どこまででもついていこう。






 明日美との生活がモノクロになって遠く離れていく。優希は瞳を閉じると全身を禄朗に預けた。
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