どこまでも
 こざっぱりと整えられた鏡の中の自分が自分じゃないようでオロオロする優希に、禄朗は満足そうに笑いかけた。

「想像以上。やっぱお前きれいだわ……惚れる」
「ほ、惚れるって……っ」
「うん」

 禄朗は独りごちて何かを得たように頷くと、今度は買い物へ行こうと連れ出された。

「おれ好みに変えちゃっていい?」
「……いい、けど」




 それはとても気持ちの高ぶる時間だった。

 自分をあまり構わず、普段の買い物も適当に済ませていた優希の世界が禄朗によって更新されていく。知らない世界、見たことのない煌めきの中に、優希は足を踏み入れ始めた。

 あまり高くもないのに質が良くて優希になじむような服を選び、どんどん垢ぬけていく様を禄朗は嬉しそうに眺めている。

「いいなあ、やっぱりおれのタイプど真ん中だった。なあ、おれたち付き合わない?」




 その日の帰り道、なんでもないことのように禄朗は言った。

「つきあうって、どこに」
「そうじゃなくて、おれと恋人同士になろうってこと」
「こ、恋人?!」

 思いもしなかった展開に、優希は動揺した。ほのかな想いがばれていたのかと焦ったがそうではなかったようだ。禄朗が真剣な顔で優希に求愛している。

「おれじゃダメ?」
「ダメ、じゃない……けど」
「ホント?やった!じゃあさ、モデルになってよ」
「モデル?!」

 今まで目立たずひっそりと生きてきた日常では起こりえないことが次から次へとおこり、優希は必死に頭をひねった。

「君は一体、何を……」
「君じゃなくて、禄朗。呼んで、禄朗って」
「禄朗」
「そう。おいで」

 手をつながれ、禄朗の家へと連れていかれた。優希の住む一人暮らしのマンションより少し小さくて古ぼけたアパートの一室で、その日優希は禄朗を初めて受け入れたのだ。
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