どこまでも
 思わず漏れてしまった独り言のような呟きに、禄朗は耳を止め、頭を寄せてきた。おでことおでこが触れ合って、真正面から覗かれる。

「どーした?急に……なんかあった?」
「うん、あったけど、今はいいんだ」
「なによー。しゃべってみ?」

 「いや」と首を振り、耳に噛みつく近さで囁いた。

「禄朗が欲しいって、ずっと思ってた」

 明日美のように命を宿せないけど、彼が欲しい。体いっぱいその熱で満たしてほしい。そう願ってしまうのは罪なのだろうか。

 そして___自分の夫が知らない場所でほかの男の雄を受け止めていると知ったら、彼女はどうするのだろうか。

 自分の中にこんな深い業があるなんて知らなかった。なんて欲張りで罪作りで人でなしな男なんだろう。

「ねえ」

 甘えるように体をすり寄せると、欲望がともり色の変わった声で禄朗が先を促した。

「ほんとに優希はおれを誘うのが上手いよな……」

 大きな手のひらが背中を撫で、腰のラインをたどった。これから楽しむ場所を指先だけでくすぐると席を立つ。

「行こうか」
「……うん」

 急くように並んで店を出る。互いに待てないとばかりに体を寄せ合い先を急いだ。

 仕方ないだろ、と誰にともなく優希は呟いた。だって誰よりも何よりも、禄朗が欲しいのだから。
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