どこまでも
 待ち合わせ場所に行くといつものようにカウンターで美味しそうに酒を飲み、マスターと話している禄朗の姿がある。こんな風に過ごすのも、あと数日しかない。

「ごめんなー、急に決まってさ」

 悪びれもなく彼はチケットを優希に見せた。

「とりあえず日本でやることは終わったし、先生から早く戻って来いって催促がきてて」
「そうなんだ」

 禄朗にとってはここにいることがイレギュラーで、アメリカがホームなのだということを思い知らされる。思わず唇を噛み締めた優希の頭をポンと優しくなでた。

「そんな顔すんなって」
「でも」

 俯く優希の目の前にもう一枚のチケットが置かれた。それはアメリカ行きの片道チケットだった。

「これはおまえの分」
「え……」
「言ったろ、アメリカに連れていくって。おれの写真にはお前が必要だって」

 再会した日、抱き合った後。禄朗は確かに言ったのだ。責任を取るから、と。あれは冗談でなく本気だったのだ。

「一緒に過ごして分かった。もう離すつもりはない」
「禄朗……」

 ずっと本気で優希とのことを考えていてくれたのだ。

 いつまでも迷っているわけにはいかないと優希は唇をかんだ。どっちみちこんな不義理なことをしている時点で、明日美のことを裏切っている。明日美のことを捨てておけないともっともらしいことを言いながら、結局は自分だけいい人ぶりたいだけ。

「渡しておく」

 優希のスーツの胸ポケットに忍び込ませて、とん、と心臓のある場所を軽くたたいた。

「お前を連れてく。空港で待ち合わせでいいよな」
「……」

 小さくうなずくと禄朗は満足そうにうなずき、優希の腰を抱いた。
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