どこまでも
一章〜優希と禄朗〜
1
会社へ向かう電車はいつもの時刻。いつもの顔ぶれで、朝だというのに誰もが疲れきったような表情を浮かべている。
それらを眺めていると、今でも慣れない自分を遠くから眺めている錯覚に陥る。
なぜこんな生活をしているのだろう。
どこでどう繋がったのか。
自分が選んできた道だというのに、曖昧な日常。だけど、これが普通と呼ばれる毎日。
小さく息を吐くと、重たいカバンをしっかりと持ち直した。
いつも通りの仕事をこなし、腕時計を見るとそろそろ終業時間も間近だった。
「斎藤、今日は定時に上がりだろ」と同僚がパソコンから視線を上げながら、ニヤリと笑った。
「今夜は盛り上がるなあ」
「何言ってるんですか」
「だって、結婚記念日なんだろ。美味しいディナーのあとのデザートは君だよ、とかさ」
「いやーん、ケダモノー」と、ほかの女子社員が頬を赤らめた。
「でも斎藤さんってケダモノっぽさがまったくないですよねえ」
「わかる!正統派王子様って感じで、足元に膝まずいてくれそう」
キャーっと盛り上がる同僚たちに、「そんなことしませんよ」と苦く笑った時だ。優希の携帯が着信を告げた。
「噂をすれば愛しの奥様からじゃないの?!」
「いや……知らない番号ですね。誰だろ……」
首をかしげながら通話ボタンを押し、受話器に耳をつけるとずいぶん荒い音声と繋がった。人の多い場所からかけているのか、雑踏の音が途切れなく聞える。
「……もしもし」
「……き……」
「はい?」
「優希?」
低くて甘い声色。それは忘れようにも忘れることのできない別れた男、須賀禄朗の声だった。
それらを眺めていると、今でも慣れない自分を遠くから眺めている錯覚に陥る。
なぜこんな生活をしているのだろう。
どこでどう繋がったのか。
自分が選んできた道だというのに、曖昧な日常。だけど、これが普通と呼ばれる毎日。
小さく息を吐くと、重たいカバンをしっかりと持ち直した。
いつも通りの仕事をこなし、腕時計を見るとそろそろ終業時間も間近だった。
「斎藤、今日は定時に上がりだろ」と同僚がパソコンから視線を上げながら、ニヤリと笑った。
「今夜は盛り上がるなあ」
「何言ってるんですか」
「だって、結婚記念日なんだろ。美味しいディナーのあとのデザートは君だよ、とかさ」
「いやーん、ケダモノー」と、ほかの女子社員が頬を赤らめた。
「でも斎藤さんってケダモノっぽさがまったくないですよねえ」
「わかる!正統派王子様って感じで、足元に膝まずいてくれそう」
キャーっと盛り上がる同僚たちに、「そんなことしませんよ」と苦く笑った時だ。優希の携帯が着信を告げた。
「噂をすれば愛しの奥様からじゃないの?!」
「いや……知らない番号ですね。誰だろ……」
首をかしげながら通話ボタンを押し、受話器に耳をつけるとずいぶん荒い音声と繋がった。人の多い場所からかけているのか、雑踏の音が途切れなく聞える。
「……もしもし」
「……き……」
「はい?」
「優希?」
低くて甘い声色。それは忘れようにも忘れることのできない別れた男、須賀禄朗の声だった。