どこまでも
「なんも欲しくないよ。ゆうちゃんがいないなんて、ダメ!無理だよ」
「ごめんね、最低な男で」

 震える肩はあまりにも小さすぎて胸が痛む。自分のわがままが一人の女の人を不幸にするのかと思うと怖くて仕方がない。

 だけどこれ以上ごまかしていくことはできない。優希は選んでしまったのだ。






 疲れ切った明日美をベッドに寝かせ、小さく息を吐いた。ベッドから離れかけた優希の服の裾をしっかりと握って、「離れないで」と掠れた声が呟く。

「いかないで!」
「明日美……」

 やわらかな髪に指を通し、何度もすいてやると明日美は心を決めたように瞳を閉じた。ほろりと透明なしずくがまぶたを流れ落ちていく。

「離婚なんてしない。好きな人がいてもいいよ。でもいなくならないで」
「……そんなことできないよ」
「約束したでしょう?ずっと一緒にいるって」
「……うん、したね。守れなくてごめん」
「うそつき」
「うん、ごめん」

 謝る以外に何をできるというのか。そのうち寝息を立て始めるまでずっとそばにいて、明日美の体を撫でていた。

 禄朗のものとは全く違う生き物のように、細くて柔らかい明日美の体。大事に守ってあげなくちゃいけないのに傷つけるばかりで、優希と知り合わなければ今頃もっと幸せに暮らしていただろう。
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