どこまでも
 薬がきいているのか、病室に運ばれた明日美はぐっすりと眠ったまま。

 ベッドのそばのイスに座っていると、看護師が呼びに来てドクターの説明を受けた。

 ストレスによる切迫流産になりかけていた、ということだ。幸い子供の生命力が強いらしく大事には至らなかったけど、しばらくは入院して安静するようにとのことだった。

「あともうちょっとで安定期に入りますからね。そこまでがんばって乗り切ってもらえれば、いったん安心ということになります。油断はできませんが、どうかあまりストレスを与えず大事にしてあげてくださいね」

 年嵩(としかさ)の優しい笑顔のドクターは優希に言った。

「妊娠は病気じゃないって言いますけどね。体の中で命を育むって本当に命がけなんですよ。体の変化、心の変化、みんな少しずつ母親になっていくんです。それを周りがサポートしてあげなければ、とてもじゃないけど妊娠出産なんて耐えられるものではない。お父さんのサポートが一番大事なんです」
「はい」
「出血も多めだったし、母子ともにあぶなかったですよ」
「……はい、ありがとうございます」

 サポートどころか大きなストレスを与えてしまった優希は、ひたすら頭を下げた。

「ぼくに謝られても仕方ないですよ。これからは奥さんを大事にしてあげてくださいね。がんばってしがみついて生きようとしたお子さんも」
「はい、本当にありがとうございます」

 何度も頭を下げて診察室をでた優希は、端末から禄朗の名前を消した。もう心が揺らがないように。
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