どこまでも
 姿を見なければ。こうやって会うことさえなければ諦めがついたかもしれないのに。どうしてまた現れてしまう?禄朗の存在がこんなにも心を乱していく。

 苦しい。優希はギュっと胸を押さえた。心臓が壊れてしまいそうなくらい痛い。優希は自分がバラバラになっていくのを感じていた。

「こいつ、Ally(アーリー)っつうの。おれのパトロン。駆け出しの写真家は貧乏だからな、いっぱいお金出してもらってんだ。日本語なんか全然わかんないくせに、おれのためにたくさん勉強して言葉も覚えてきてさ。健気だと思わない?」

 傍らに立つAllyと呼ばれる彼の腰を抱き、撫でながら禄朗はつづけた。口元が皮肉にゆがむ。

「もう、おれとお前の道は分かれたんだ」

 優希の腰にある禄朗のための道しるべ。それはもう意味をなさない。
 
 二人にとって大事な場面はたくさんあって、分岐点でいつも別れる道を選んできてしまった。もう訂正できないところまで離れてしまったのだろう。

「……個展、おめでとう」

 いまにも涙がこぼれ落ちそうになったのをぐっとらえて、優希は笑みを浮かべた。
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