どこまでも
 禄朗は写真家になる夢をかなえた。そしてAllyを選んだ。これから進む道のパートナーを見つけたんだ。公私ともに支えて歩いて行ける人を。

 それが優希じゃないのは仕方ない。この結末をわかっていて自ら手放したのだから。

「これからの成功を祈ってる……もうそれくらいしか、できないけど……」

 今までの別れは突然で、言葉を交わすことさえできないまま離れてしまった。だから「さよなら」を言うのは初めてだ。自らの意思で決別の言葉を口にしなきゃ、と強い気持ちで叱咤した。

 せめて最後だけは感謝を伝えたくて、優希は微笑みながら「今までありがとう」と口にした。

 ここまで連れてきてくれたのは禄朗だ。あの時彼と出会わなかったら、付き合わなかったら、今の優希はいない。きっと孤独な殻にこもったまま誰ともかかわらず、寂しい人生を送っていたことだろう。

 こんなに美しい世界をみせてくれた禄朗に伝えたいことは感謝と、これからの未来を祝福してあげる言葉だけ。それだけが優希にできることだ。

「禄朗と出会えてよかった……さよなら」
「優希」
「お元気で」

 何かを言いたげにし、だけど飲み込んだ禄朗に微笑んで優希は踵を返した。






 もう振り返らない。

 薄紅の雑踏の中を歩きだす。


 すれ違う人たちがみんな幸せそうに笑っている。駆け足で街を横切る優希からは次から次へと涙があふれ、止めることができなかった。

 「さよなら」の言葉のない別れを何度も繰り返したけど、それはまだ希望が残っていて__いつか、もしかしたら__という願いを持ち続けることができていた。

 だけど今回は違う。

 禄朗はAllyを選び、優希も明日美と花を選んだ。

 そんな二人が出会い愛し合うことはもう二度とない。わかっていたことなのに、自分が選んできたことなのに、こんなにもつらい。
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