どこまでも

 ポケットから取り出し画面を見ると、知らない番号だった。そういえば禄朗からの最初の連絡もこんな感じだったなと思い出す。まさか、という淡い期待を持ちかけて苦く笑った。いつまでたっても卒業できないでいる。

 通話ボタンを押すと流暢な英語が流れてくる。思わずひるんでしまった。クライアントに英語を話す人はいなかったはずだ。ためらいつつ応えようとすると、「優希?」と名前を呼ばれた。

「I'm Ally」
「あ、Ally……?」

 禄朗のパトロン、今のパートナー。柔らかな金髪と細くしなやかな体を思い出す。若くてきれいな禄朗の恋人。

 Allyは話があるから会えないか、と優希に伝えてきた。あの時の景色が目の前をちらつき、交わる二人の濃厚な息遣いがよみがえってきた。

 優希だけのものだったはずの所にいる彼に、会いたくはなかった。みじめになりたくない。まだ傷はふさがっていない。

 断ろうと口を開きかけたら、それを遮るように待ち合わせの場所が告げられ一方的に切られた。

 いったい何の用があるというのか。優希は重たい気持ちを引きずりながら大きく息を吐いた。


 待ち合わせのバーへ行くと、すぐ目を引くAllyの美貌にため息がでた。店内の客もチラチラと視線を送り、彼の挙動を追いかけている。まるでモデルのような美しい顔立ちと、スタイルだけじゃない強いオーラに人目を引くのは当然だろうと思った。

 近づくと優希の存在にすぐに気がつき、こっちだと手を挙げた。

 卑屈にならないよう、ぐっと力を入れて背筋を伸ばす。張り合ったところでどうしようもないが、気後れしてしまう自分をなんとか励ましたかった。

 「待たせてすみません」と謝ると、問題ないと首を振った。
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