どこまでも
 優希の知らないアメリカでの禄朗の姿に、思いをはせる。どんな生活だったのか、どんな風景を見て、どんな暮らしをしていたのか。優希にはわからない彼の生きていた時間。それを共有していたのは、目の前にいる彼なのだ。

「もう終わったことだよ」

 さよならが二人を隔ててしまった。

 そう答えると、Allyは不思議そうに首を傾げ納得がいかないのか唇を尖らせた。そんな仕草もいちいち様になり、苦しくなった優希は瞳を伏せた。

「そうかな。だってまだ禄朗はきみへの思いを断ち切ってないように見えるけど」

 だがAllyは淀みのない日本語で会話をつづけた。禄朗のために覚えたと言っていたが、これだけ話せるようになるにはかなり努力したはずだ。どれだけ禄朗を想っていたのかが伝わってくる。

 そのAllyの言葉には不安といら立ちが含まれていた。

「どうしてぼくがきみの番号を知ったのかわかる?」

 ふるふると首を横に振ると、Allyは不満そうな声色を出した。

「禄朗の携帯にはまだきみの番号が残っていた。ずっと繋がれたままなんだよ、むかつくことにさ」

 くやしさを飲み込むようにぐっとグラスのお酒をあおると、先を続ける。

「別れた男の連絡先を大事にしてる禄朗にもむかつくけど、それを隠そうともしないことにも腹が立つ。ぼくに見られたって全然平気で怒りもしない。だからなに?ってその程度でさ……彼は何も怖くないんだ。きみ以外に失うものがないから、これ以上何をなくしたって平気なんだ。ぼくがそれで嫌な思いをするってことまで気が回らない」
「まさか」
「こんなこと嘘ついてなんのメリットがあるっていうんだよ。それに……ほら」

 Allyはおもむろに優希のあごをつかむと、グっと上を向かせた。
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