どこまでも
 他の男たちのことは知らない。だけどAllyとの間にだけは、一瞬だけつながりができたと思えた。彼と抱き合ったあの瞬間、Allyを愛したと言っても過言ではないくらい強く結びついた。

「ですが」
「本当です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません、ですが、合意です」

 きっぱりと告げた優希にドクターは息をつき、「そうですか」とうなずいた。

「斎藤さんがそうおっしゃるのならそうなんでしょう。こちらとしてもご本人の意思がなければどうしようもありませんので……性病などの検査もしましたが、すべて陰性でした。それはご安心ください」

 それを聞いて優希はほっとした。さすがにあんなに不特定多数に襲われたのだから、なにかしらの障害が発生したらというのは怖かった。

「ご迷惑をおかけしました」

 もう一度頭を下げると、ドクターは「一応ですが……」と言葉をつづけた。

「もし考えが変わったり何か思い出したりして証拠が欲しくなったら、おっしゃってください。こちらもできる限りのご協力はします」
「ありがとうございます」

 最悪の事態だけは免れた、と優希は安堵の息を吐いた。警察にも通報されず、これだけのケガで済んだのなら不幸中の幸いだ。この先大きな障害になるものもないなら、あとは傷を治せばいいだけ。

「ご家族にも連絡をしていますので、とりあえずこのまま体を治していきましょうね」
「はい」

 状態が状態だからか、優希に与えられていたのは小さめの個室だった。真っ白で清潔で静かな部屋に一人きりになると、大きな溜め息が漏れた。

 自分一人分の呼吸だけが聞こえる静寂に、ようやく体から力が抜けていく。
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