どこまでも
 一体何を言っているのだろうか。呆然とする優希を汚らわしそうに一瞥すると、「書類は送りますので」と続ける。

「待ってください、なんで急に……?」
「救急車で運ばれたと連絡があった時、わたしも明日美と一緒に病院に参りました。運ばれてきたあなたは意識も朦朧として全身傷だらけで……何か事件に巻き込まれたのかと明日美は震えてしまって」

 そこで言葉を切る。先を口にするのも忌々(いまいま)しいといった具合で。

「医師から状況を伝えられた時、明日美は泣き崩れました」

 父が続けた。

「どうやら性的暴行を加えられた可能性がある、と。男性なのに性的暴行なんて……あなたはそんな趣味がおありだったんですか?!」

 汚らしいものを見るように、明日美の父は顔をしかめた。

「そもそも明日美があなたと結婚したいと言い出した時から、心配だったんですよ。男のくせに気持ち悪いくらい綺麗な顔をしていて、何を考えているかもわからないような……親子の縁も薄いあなたに、まともな家庭なんか築けないだろうって。予感は的中しました」

 優希はただ放心したように、彼らの言い分を聞いていた。

 そんな風に思われていたなんて知らなかった。ずっと嫌われていた?最初から。

「正直明日美も婚約破棄をされたショックから立ち直ってもいなかった時期でしたし、まともな状況じゃなかった。だからあなたみたいな変な趣味を持った男につかまってしまったのかと思うと、あの時の自分たちが悔しくて」
「あの時ちゃんと止めていれば、こんなことには」

 明日美の両親はいままでずっと我慢していただろうことを、口々に訴える。

「申し訳ありません」

 優希はなんて言葉を返していいのかわからず、震える声で謝罪の言葉を口にした。
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