どこまでも
 言う通りかもしれない。

 両親は優希がまだ小学生のころに離婚していたし、養育に関して途中から手放されていた。学校に通えて、生活をする分の保証さえしておけばなんの問題もないと考えていた人たちだ。

 今はもうほぼ縁がないと言ってもいい。どこで何をしているのかもお互い知らない。さみしくないかと言われればそれは違うけど、もう諦めてしまった。

 それが明日美との結婚生活にどう影響していたのか、優希にはわからない。普通の幸せな家族を知らないから。だからこんなことになってしまった?

「ご迷惑をかけてしまって申し訳ないと思っています。でも今回のことは趣味でもないですし、親とも関係ありません。本当に、ただの事故なんです」
「もういいんですよ。男に、暴行を受けるような人を花の父親としておいておけません」

 言いたいことは全部言ったとばかりに、明日美の両親は背中を向けた。

「待ってください!」

 ベッドから這いだすと彼らのもとへと歩んだ。だが近寄る優希を不潔で仕方ないといわんばかりに拒絶されてしまう。その怯えた表情に全てを悟った。

 明日美と結婚したのは男と交じって喜ぶ変態で、まともな感性を持ち合わせていない穢れた男。それは両親の愛を受けて育っていないからどうしようもない。

 これ以上明日美と花を汚すような存在はもういらない、そういうことなのだ。彼らは優希を「汚らしいもの」として認識した。

「明日美と花を愛しています」

 優希は震える声で訴えた。

「それは本当のことです」

 だけど優希の訴えは彼らには届いてはいないようだ。あきれたため息を吐きながら、明日美の両親はゆるりと首を振った。

「もういいです、やめましょう」
「ぼくの存在が彼女たちを傷つけるなら身を引きます。でも、大事に思っていたことは本当なんです。信じてください」
「斎藤さん」

 明日美の父は憐れむように優希を見た。

「でもあなたは花に姉妹を作ってあげられなかったんですよね」
「は……?」
「男として不能なのは、あなたが男に抱かれるのが好きだからでは?」

 否、とは言えなかった。それも事実だ。
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