どこまでも
 禄朗を愛して彼に抱かれて喜び、明日美と離婚しようとした。花の命を流そうとしたこともある。一緒に暮らしながら、明日美を抱けなくなっていたことをこの人たちは知っているのか。

 否定できない優希にため息をつくと、吐き捨てる言葉を言い残した。

「自覚されているようですよね。汚らわしい……もうあの子たちには近寄らないでください」

 伝えたいことはもうないといわんばかりに、彼らは背中を向けて病室を後にした。コツコツと彼らの心境を表す固い靴音が遠ざかっていく。

 残された優希は、その場からしばらく動けなかった。こんな形で終わるなんて。暗い道を照らしてくれた明日美と花の明るい笑顔を、優希が壊してしまったのか。

 彼らの言い分に何一つ反論できなかった。

 小学生になる花を見届けることができなかった。この先素敵な女性になっていくのを優希は知ることができない。あの子だけは絶対に傷つけず、幸福な人生を歩ませてあげたいと願っていたのに。

 だけどそれでよかったのかもしれない、と肩を落とした。

 優希にかかわった人間はみんな不幸になる。それならばこうやってひっそりと誰ともかかわらず生きていければ。これ以上大切な人を苦しめたくはない。

 足音が聞こえなくなっても、優希はいつまでも動けないでいた。
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