どこまでも
「……えっ?」

 予想もしていなかった言葉にびっくりして缶を落とすと、鈍い音を立てて転がった。それをAllyが拾うとほこりをはらい、綺麗なものを優希の手の中へ返した。

「今までだってよくあることだったんだ。ふらっといなくなって、少ししたら連絡があって、どこかに写真を撮りに行っていたり。でも今回は違う」
「違うって」
「カメラを置いていった」

 Allyは両手を組みそこにあごを乗せると、ふうと息を吐きだした。とても重たい空気が広がっていく。

「その前からちょっとおかしいなってこともあったんだ。今までの写真を捨てたり、カメラに全然触らなくなったり。活動としては順調のはずなのに、どこか魂の抜けた顔をしてぼんやりとしていたり」
「禄朗が」

 大事そうに抱きかかえていたカメラを置いてどこかにいくなんて考えられない。

「ほかのカメラを持って行ったとか」
「ううん。カメラは全部置いていった。だから優希なら行き先を知らないかなって」

 Allyは困り切ったように、優希へ視線を向けた。

「きみなら知ってるかもしれないと思って」
「ぼくは」

 全く知らなかった。禄朗がそんなに思い詰めていたことも、いなくなったことさえ。その心のうちが何を想っているのか。今の優希にはまったくわからない。

「それは……Allyのほうが詳しいだろ」

 ずっとパートナーとしてやってきたのだから。禄朗の隣にいて、彼のことをよくわかっているはずの恋人はAllyであって優希じゃない。今の優希はその他の人たちと同じ、ただの他人なのだ。

 だけどAllyはゆるゆると首を振り淡く微笑んだ。

「そうだけど、そうとも言えない。ぼくたちはパートナーだけど恋人じゃない」
「え?なに……どういう意味……?」

 言っている意味がよくわからなかった。
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