どこまでも
「じゃあ……」
「優希とのことは言ってないよ。約束だから、それは大丈夫。でももう接触しないって伝えたら禄朗はあっさり了承して、それで終わり。ぼくのこと別に好きでもなんでもなかったんだよ。わかっていたんだけどさ」

 優希が一人になったころに同じくして禄朗も一人になっていた。彼は今も孤独なままどこかをさまよっているのか?誰にも助けを求められずに。

「……彼のサポートは?」

 Allyという後ろ盾を無くして、どうやって活動していくのか。個展を一つ開くだけで莫大な金銭のやり取りが発生するはずだ。詳しくはわからなくても、想像がつく。

「それは続けてるよ。禄朗を愛してるからね。そうだ、これ名刺」

 Allyは高級なスーツのポケットから名刺を差し出すと、優希の手にそっと乗せた。なにやら難しげな横文字の肩書が書かれている。

「アーティストは金がなきゃ活動できないし、そのために身体を売るやつも多い。ぼくを抱いていた禄朗のようにね。だからそれを廃止させたくて、芸術家の卵をサポートする仕事を立ち上げたんだ」
「そうなんだ。すごいよAlly」

 あの時のAllyからは想像できないくらい、大人びた。駄々っ子でしかなかった彼が、今は誰かを助けている。そのことがすごく嬉しい。

「素敵な仕事だと思う」
「ありがとう。それも全部優希とのことがあって気がついたんだ」

 Allyはもう一度しっかり優希に向き合うと、頭を下げた。

「あの時は本当に申し訳なかった。ごめんなさい」
「それはもういいよ。終わったことだから、さ」

 思い出したくもない過去が違う形で動き始めていた。優希にとって災難だったものが、知らない場所で新しく芽吹き、ほかの人の手助けへ繋がっていた。

 それを知られたことで、充分救われた。

「禄朗のこと、もし何かわかったら連絡して」

 Allyは腰を上げ、眩しそうに優希へ視線を送った。

 すっかり日が落ち暗くなった公園にぽつぽつとライトが灯り、優希の上に影を落とす。見上げるとそこには、禄朗を欲しがっていた子供じゃなく、しっかりと自立した一人の男がいた。

 優希の中に流れた時間と同じくらい、Allyの中にも時は流れ変化を与えていた。

「優希とこんな形じゃない出会い方がよかった。もっと違う形で、いい関係になれるような」
 
 痛みを押し隠して、Allyは微笑みを浮かべた。
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