どこまでも
 頭の回転が良く、次に何をどうすればいいのかすんなりと答えが導き出せる。禄朗への道しるべを手にしているのは自分だけなんだと思える。

 もう誰かにお膳立てしてもらって、受け身で生きていくことはしたくなかった。

 欲しいものを手に入れる最大の努力はしたいし、諦めたくない。禄朗を失いたくない。後悔なんか二度としたくない。

「やっぱり優希はすごいよ」

 電話の先のAllyは、憧れを含む声色で呟いた。

「禄朗が惚れたのが分かるな。普段はものすごくおっとりとして物静かなのに、一皮むいたら全然違う顔がある。内に秘めた気持ちの熱さに目が離せなくなるんだ」
「そんなことないよ。ぼくは弱虫で傷つくことからずっと逃げてばかりだった。可哀そうな人を演じてきた卑怯者だ。だけどもうそんなのは嫌なんだ」

 誰かに頼って、手を引いてもらえなきゃ先にも進めなくて。自信がなく必要とされることばかり欲して、本当の自分から目を背けていた。

「禄朗を見つけるから」

 誰にも譲らない。禄朗は優希が手に入れる。だからもう少しだけ、待ってて。

 興奮していたのか全く眠くはならなかった。彼の写真を見つめ、今すぐ会いたいと思った。

 抱きしめて、大丈夫だと。もう一人じゃないよと伝えたい。




 夜が明けて朝日が差し込んでくると、荷物をまとめて家を出た。

 空港に向かう途中会社に電話をし、しばらく休むことを伝えた。私用で迷惑をかけることは社会人としてしちゃいけないことだとわかっている。だけど今はそんなことを言っている場合ではなかった。

 このままクビになっても仕方ない。

 そう覚悟をしていたが普段の態度が良かったせいか、とりあえず有休消化として扱ってもらうことができた。

「どうした?なにかあったのか?」

 突然のことに心配そうな声をかけてくれる上司に謝りながら、今まで気がつかなかっただけでたくさんの人に守られて大切にしてもらったことを知る。

「ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」

 見えない受話器の向こうに頭を下げると、電話を切った。

 優希が前を向いてしっかりと歩こうと決めてから、不思議と道が開いていくようだった。八方ふさがりで、どうにもならない暗闇ばかりだったはずなのに。

 こうしたい。これは譲れない。そのことを伝えることで道がぐんと開けていく。

 今まで目を向けなかっただけで、どれだけの想いを素通りしてきたのだろう。
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