どこまでも

 空港にたどり着くとAllyはすでに待っていて、様々な手続きを終えてくれた。

 数年前、禄朗からもらったチケットでここからアメリカに飛ぶ予定だった。

 おなかに花を抱えた明日美を捨て、何もかも中途半端にして。あれから思いもよらないことばかりで、想像もできないくらい遠くまで来てしまった。

 だけど今の優希にはなにも後悔するものはない。後ろ髪を引かれることも。すっきりとした気持ちでアメリカに行ける。

 あの時の禄朗はどんな気持ちでここにいたんだろう。いつ来るともわからない優希を待って。いつまでもこない優希を思って。



 彼の見た景色を忘れないでいようと思った。果たせなかった約束を今からでもつなぎたい。二人で見るはずだった景色をこれから捕まえに行く。自分の力で、禄朗に会いに行く。

「優希、海外は初めて?」

 Allyは優希が来る前にビジネスクラスに変更してくれた。雑多な人々の流れから離れて、静かで落ち着きのあるラウンジへ案内してくれた。

 ゆったりとしたソファに腰を落ち着かせていると、Allyはコーヒーを片手に隣へ腰を掛けた。真っ白い湯気が立ち上るカップを受け取り口をつけるとほの甘く、緊張しっぱなしだった気持ちが少しだけ緩む。

「移動時間も結構長いから、あまり気を張らないほうがいいよ。疲れちゃうから」
「そうだね」

 ビジネスやバカンスに来ている人たちがそれぞれリラックスした様子で、搭乗案内を待っている。その中に今自分がいることは、なんだか不思議。

 昨日の優希はただ、家と会社を往復するだけのくたびれたサラリーマンでしかなかったのに。

 いつだって禄朗の存在が優希を見たことのない外の世界へ連れだしていく。

「チケット変えてくれたんだ」
「こちらの不手際で優希にも迷惑をかけているからね。これくらいはさせて」
「ありがとう」

 こうして並んで普通に話していることが、まだ現実味を帯びない。

 あんなひどい目にあわされた相手だというのになぜか許してしまっているし、慣れない海外のサポートをしてもらっているし。今頼りになるのが彼しかいないというのも皮肉なものだ。

 優希からなにもかも奪っていった元凶だというのに。
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