どこまでも
「変なの」

 思わず声に出してしまうと、Allyは不思議そうに先を促した。

「だって君とぼくは禄朗を取り合って嫉妬しあっていたはずなのに、今こうして普通に会話している。結構ひどい目に合わされたあの頃の自分には、信じられないだろうなって」
「それを言われるときついな……ごめん。でもそうだね。あの頃のぼくも知ったらびっくりするよ。信じられない嘘だろ?!って叫ぶ」
「想像がつくよ」

 Allyは困ったように笑い「人生は何があるかわからない」と囁いた。

「あんなに嫌いだったのにね」
「お互い様だよ」

 問題の根っこからもぎ取る荒々しいAllyの洗礼を受けて、明日美と花との生活さえ失った。あれがなければ今でも偽りの生活を続けていたのかもしれない。
 
 優希を嫌っている義両親は本心を隠し、明日美は優希を(うかが)い、優希は約束を果たそうと自分の気持ちを裏切り続けただろう。それを幸せと呼ぼうと思ったら、呼び続けることができたはず。

 だけど、壊れたことで優希は本当の優希として生き始めることができた。何もかも無くして、再生することも。
 
 本当に人生は何があるかわからない。



 次々とアナウンスがかかるたび人の流れが一つに集まり、搭乗口へ吸い込まれるように消えていく。

 ほどなくして優希の乗る飛行機のアナウンスがかかり、機内へ乗り込んだ。定刻に日本をたった飛行機は順調に空を飛び、長時間を経て異国へたどり着いた。

 広いシートで思い切り足を延ばせたため、思ったより疲れてはいなかった。個室とも思えるくらいの広さにのびのびとくつろげ、食事もおいしく贅沢な時間を過ごせた。

「疲れてない?」
「大丈夫。飛行機があんなに快適だって知らなかったよ」
「それならよかった」

 空港の中の空気も日本とは違う。異国の匂いがして、ついにアメリカへ降り立ったのだと実感した。周りは英語が飛び交い、当然目にするどれもが日本語ではない。

 かつてここを禄朗は一人で歩いた。約束を守らなかった優希をどう思いながら先へと進んだのか。心配と不安と絶望が絡んでいただろうと思うと胸が痛む。

 空港の外へ出るとさらに雰囲気はガラリとかわり、ここは日本じゃないんだと思うと急に緊張してきた。手に汗をかいている。言葉もうまく通じない、土地勘も文化も違うところで禄朗を探さなくてはならない。

「車を用意しているからまずはオフィスへと行こう」
「うん」
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