どこまでも
 ずっと強がってはみたものの、Allyがいてくれてとても心強かった。一人だったら右も左もわからず、この先どうしていいかオロオロしていただろう。

「Ally」

 先を行く彼の腕をつまみ「ありがとう」とお礼を述べた。ぎょっとしたように振り返る。

「どうしたの急に」
「いや。やっぱりわからない土地だからさ……Allyがいてくれてよかったなって」

 正直に伝えるとAllyはおかしげに笑い、優希の背中に手を伸ばした。

「役に立ってるならよかったよ。少しは罪滅ぼしになる?」

 ぐ、と言葉に詰まると笑みを浮かべた。

「安心して頼ってよ。そのためにぼくはいるんだから」
「うん。ちょっとだけ頼らせて」

 困ったように笑うとAllyはすっと目を細め、背中に置いた手に力を入れた。

「優希のそういうところはすごくいいけど、でも気をつけたほうがいいよ」
「どういう意味?」
「甘えてくるのが可愛くてどうにかしてあげたくなるから」

 ふふ、と意味深に笑うと一台の車のドアを開け「どうぞ」と促した。

 そういえば外国では運転席と助手席は逆だったんだな、と車に乗り込みながらドキドキとした。わかっているのと実際体験するのとでは全く違う。

 日本とアメリカ。なじみがあるようでいて全く違う国なのだ。認識も常識も人種もすべて。車の助手席に座っただけで見る景色が見慣れず、どうしたらいいのかためらうくらいなのに。
 
 たった一人で滞在し、結果を出したいともがく禄朗の苦労ってどれくらいだったんだろう。

 「連絡の一つも寄こせないなんて」と若いころの優希は悲しみ、捨てられたと勘違いした。生活のすべてが違う場所で何かをなしたいと思っていたら、どれだけの困難があるのかなんて考えが及ばなかった。禄朗のことをわかってあげられなかったのだ。

 車窓の景色も日本では見ないものばかりだ。広大な道路。どこまでも続く直線道路はさっきから景色が全く変わらない。不意に文明が開けた景色が広がり、想像通りのアメリカの風景だと思えばまた森林の続くまっすぐな道。

「アメリカって広いね」
「そうだね。日本から見たら余計そう思うかも」
「うん。こんな広い景色、見たことないよ」

 窓の外に見惚れながら風に吹かれていると、Allyは頷きながらハンドルをゆっくり切った。
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