どこまでも
「彼は優希。日本から禄朗を探しに来ました。仲良くしてくださいね」

 ケイトの一声に男たちはしおらしく返事をし、それぞれ名乗りあげた。

 写真家だけじゃなく、絵やダンス、歌や俳優などそれぞれ目指しているところは違うけど、叶えたい場所がある熱さを持っていた。

 「優希は何かしないの?」と質問をされたが、答えられるものは特になかった。

 言われてみて気がつく。優希にとって「これ」といったものは何もなかったかもしれない。

 周りに合わせてなんとなく生きてきてしまったせいか、こうやって何かをなしたいと熱くなる人たちに憧れがある。

 そういうものを見つけてみたいな、と初めて思った。
 
 お酒が入ってくると盛り上がりはエスカレートする一方で、騒々しく夜は過ぎていった。一人で不安を抱えたまま夜を過ごさないで済みほっとする。

 本当は不安だったし怖かった。何も知らない場所で禄朗を探すことができるのか、途方に暮れそうだった。

「優希。君はいいやつだ」

 肩を組まれながら階段を上りそれぞれの私室で別れると、急激に睡魔に襲われた。倒れるようにベッドにもぐりこみ意識を手放すとあっという間に眠りに落ちていく。

 久しぶりにぐっすりと眠った。スッキリとした気持ちで目覚めると、見る景色がいつもと違っており一瞬驚く。

 そうだ、アメリカに来たんだった、と思い出し大きく窓を開けた。

 賑やかな通りにはたくさんの人が行き交い、食べ物のいい匂いが部屋まで上がってきた。そういえばおいしいベーカリーがすぐそこにあるとAllyが言っていたと思い出す。

 身だしなみを整えて階段を下りていくとケイトがくつろいだようにコーヒーを飲んでいるところだった。

「おはようございます」
「おはよう。早いですね」
「いい匂いで目が覚めてしまって。ベーカリーがあるって聞いたんですが、近くですか?」
「そう。一緒に行きましょうか」

 読んでいた新聞を折りたたみ、ケイトは身軽に立ち上がった。

「ちょうどおなかもすいてきたし、食べたくなっちゃいました」
「ありがとうございます」

 さりげない優しさをありがたく受け取ることにする。

 ケイトがいることでここがとても居心地のいい場所になっているのだろう。優希でさえ安心して滞在してしまっている。
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