どこまでも
「あそこのフランスパンが絶品なんですが、サンドイッチやホットドックもオススメです」
「聞いているだけで美味しそうです」
「おいしいですよー。帰りにコーヒーショップも教えてあげましょう」

 こんな風にアメリカの街を歩くなんて、数日前の優希は想像してもいなかった。聞き取れない言語や早口の英語が飛び交い、颯爽さっそうと活動する人たちとすれ違う。

 それとおなじくらいのんびり犬の散歩をしたり、優希と同じように朝食をみつくろう人たちもいるのだろう。とにかく活気のある場所だった。

 ケイトと並んで歩きながらAllyの話題になる。

「Allyは子供のころから知っていました。あのヤンチャな男を目覚めさせたのは、どんな人なのかって興味があったんです。でも優希をみて、理解できました」
「えっ!?ぼくこそ、Allyが大人になったのはケイトの力なんだなって感心しましたけど」
「いやいや、つい俺たちは彼を甘やかしていましたからね……。優希の深い愛情があったからAllyは矯正できたんです」


 ケイトはAllyの父親の知り合いだったそうだ。

 子供のころからたくさんの大人に可愛がられ甘やかされていたせいか、ついワガママで自分勝手な行動も許されると思わせてしまった。
 
 このままじゃいけないと手をこまねいているうちに、禄朗という存在にどっぷりはまってしまった。そして追いかけていった先で何があったのか、人が変わったようにおとなしくなったとケイトは話した。

「シュンとして思い煩うようになり、何か真剣に考えているんだなっていうのがよく分かりました。でもそれが何なのかは全く分からなかった」

 でも、ある日。Allyはケイトにポツリポツリと話し始めた。優希との出来事を。

「深い愛情を知って今までの自分が嫌になった。愛されている禄朗が羨ましいと思ってしまった、と悔しそうでしたよ。もともと優しい子だし、思慮深いんですよね。頭がいいから察するのも早いし。いい方向に行けばあれほどいい男に育つんだなってビックリもしたけど」

 そこからは早かった。年上で気づかいのできるケイトを見習って、自分が求める男性像に近づこうと必死に努力したそうだ。

 自分のことしか考えられなかった子供が他人のために動くことができるようになったころ、ケイトと気持ちが通じ合った。
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