どこまでも
「まずは近いところから回ってみよう」

 人があふれ賑やかだった街並みは、次第に点々と建物だけのさみしい景色へ代わっていく。空港からの道のりでも思ったけど、都会と自然の差が激しい。

 ゴミゴミとしていた道路はいつしか空が広く、どこまでも続く道のりに代わっている。

「禄朗が見つかったら、どうする?」

 ハンドルを握りながらAllyが問いかけた。

「ずいぶん会っていなかったわけでしょう?お互いにそれぞれ生活していたじゃない、それでもまたうまくやっていけると思ってる?」
「そうだね」

 考えなかったかといえば嘘になる。禄朗といた時間より離れていた時間の方がはるかに長い。好きだと思っているけれど、過去の彼に恋をしているだけなのかもしれない。

 今、再び顔を合わせて恋愛に発展するのか……優希にはわからない。そしてそれは禄朗にも言えることだった。

「でも会いたいし、もし一人で道に迷っているならそばにいたい」
「もし禄朗が思っていたのと変わっていても?」
「……うん」

 雑誌や写真の中でしか逢えなかった禄朗。知っている彼よりいくつも年齢を重ね、いろんな人と出会い、時間を経た彼は優希の知っている禄朗ではないのだろう。

 なぜこんなに執着しているのか。いつまでも忘れられないのか。

「禄朗はぼくの初恋でただ一人の人なんだ」
「初恋?」
「そう。恋愛に疎くて誰かに興味もなかったぼくが、唯一一目で恋に落ちて欲しいと思ったのが禄朗なんだ。今までの人生でそれは変わらない。彼以外に恋をしたことはないよ」
「結婚してたじゃん?」
「それとはまた違うかな、あれはなんだろう……家族としての情はあってもドキドキしたりせつなかったり、そういう感情とは違ったし……責任は果たせてないけど、そんな感じ」
「ふうん。禄朗も同じようなこと言ってたな」

 Allyは遠くを見つめて呟いた。

「優希が初恋でほかの人とは違うって。優希以外に欲しいと思った人はいないよって」
「そっか」

 いまもそうであってくれたら嬉しいな、と緩む頬を抑えながら外へ視線を向けた。流れていく景色は禄朗のもとへ、つながっているのだろうか。


 ナビを見ながら「このあたりかな」とAllyは車をドライブインへ向けた。

「滞在するならそのあたりのお店に寄っているかもしれないし、聞いてみよう」
「そうだね、気がつかなかった」
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