どこまでも
 カウンターにいる店員に写真を見せ聞いてみるが、見たこともないとの返事だった。

「何件かあたってみよう」

 だがどこのお店でも、見たことがない以外の返事はなかった。すぐに見つかるとも思っていなかったので、次の候補へ車を走らせる。

 空は色を落とし、濃い青へ変わっていく頃。Allyは車を停め、「今日はここに泊まろう」と言った。

「ここもいい撮影スポットだって評判のキャンプ場なんだ。施設もそろっているし安心して泊まれる」
「うん、運転疲れただろ。お疲れ様でした」

 助手席に乗っているだけでも体中がバキバキと音を立てる。途中で買ってきた食材で簡単な調理をするのは優希が引き受けた。

「せめてこれくらいはさせて」
「じゃあ頼むね」

 火をおこし、ただ焼くだけの料理ともいえない食事だったけど、満天の星空の下で食べる味は別格だった。

「キャンプって実は初めてなんだよね」
「そうなんだ?」

 仲の良い家族で行うイメージもあるキャンプは、優希の生活と無縁だった。火を起こしたのも初めてのことだ。もたつく優希にAllyはアドバイスを送りながらも自分は手を出さなかった。

「でもこれで火もつけれるようになったし、いつでもキャンプに行けるな」
「そうだね。火がついたときは感動したよ!」

 顔を黒くしながらも炭の先端が赤く灯り、先端から白い煙を出すのを見た瞬間、嬉しくて飛び上がった。Allyと手を叩きあって喜んで実践することの大事さを強く理解した。どんなに大変でも自分で経験することが糧になる。

 パチパチと穏やかにはぜる火を眺めていると、心が落ち着いてくる。

「今頃、何してるのかな」

 ポツリとこぼれた呟きにAllyは耳を傾けた。

「そんなに好きなら離れなきゃよかったのに」
「だよね。いつだって必死で、これしかないって選択したはずなのに間違えてばかりだ」
「後にならなきゃわからないことだらけだからな」
「本当に。全部意気地のない自分のせいなんだけど、ね」

 もし怖がらず禄朗を信じていられたら、今頃は二人で過ごしていたのだろうか。誰のことも傷つけず、ただまっすぐに彼だけを愛していられたのだろうか。
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