どこまでも
「でもそうだったなら、優希とこうして過ごせなかったと思えば、それはそれでさみしいけど」

 Allyの言葉に顔をあげた。

「そうだろ?禄朗を探しに来たから、こうしてすごい迫力の星空を見ながら語り合えてる。ぼくは楽しいけど」
「そっか。そうだよね、Ally」

 間違えた選択ばかりしてきたのかもしれない。けれどそれらの先に繋がっていた道は、優希をたくさんの人たちに会わせてくれた。いろんな経験を与えてくれた。

「本当にきみはずいぶんと大人になったんだな」

 しみじみとした言葉にAllyは唇を尖らせ、「子ども扱いかよ」とすねた。そんな仕草は昔と変わらないのがほほえましい。

「Allyとも色々あったけど、いい友達になれるのかもしれないなってこと」

 優希の生活をボロボロにした相手とこうして一緒の時間を過ごすようになったこと。人生は何が起きるかわからない。面白い、と思った。

「ちょっと回ってくるね。もしかしたらいるかもしれないから」
「わかった。気をつけて」

 懐中電灯を手に、キャンプ場の中をゆっくりと歩いた。点在するテントや車からほのかな明かりが漏れ、楽し気な笑い声が聞こえている。

 ここにいる人それぞれに人生があって愛する人がいて、生活があって楽しみがある。

 そんな簡単なことに今まで気がつかなかった。窮屈で狭い優希の世界は今、メキメキと音を立てて広がっている。禄朗を見つけたい、そう思って行動したことが新しい世界へつながっていく。

 たった一人、部屋の中で過去だけを見ていた日々。それを解き放ち目覚めるキッカケは、いつだって禄朗が与えてくれる。
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