どこまでも
 優希にとってだいじなもの。捨てられないもの。ごまかして嘘をついて築き上げてきたものの不確かさや、そのせいで傷つけてしまうこと。

「だからもういいんだ。黙っててごめん」

 禄朗を宥なだめようとしがみつく優希の耳に、パンと軽やかな音が届く。

 見ると涙をボロボロと流しながらケイトがAllyを平手打ちしている。何度も乾いた音を立てて、黙ったままAllyを叩いている。

「そこまで酷いことをする人だなんて思いもしまいませんでしたよ、Ally。最低です」

 怒りより悲しみを含んだケイトの様子に、Allyは唇を噛みしめている。

「わかってる。本当にぼくは最低な男だ」

 Allyはうなだれながら頭を下げる。

「優希、ごめん。黙っているって約束したけど……これ以上なんでもなかった顔で……知らん顔をしたままみんなといるわけにはいかないよ……」

 深々と頭を下げるAllyにケイトはしがみついた。

「おかしいと思ったんですよ。日本から帰ってきたあなたがしばらく大人しくて、そこからいきなり様子が変わった。突然の改心に何かあったとは思ったけど、こんな酷いことをしていたとは……」

 ケイトは優希の前に来て頭を下げると、「申し訳ありませんでした」と謝った。

「そんなことがあったとは知らず、Allyをのさばらせていました。いい男に育ってきたな、なんて思い上がりも甚だしい。恥ずかしいです」
「や、やめてください……本当に謝ってほしいわけじゃないんです。こんな風にしたいわけじゃなくて……」

 自分のせいで、過去の間違いでせっかくの穏やかな関係を壊したくない。

「Allyは謝ってくれました、ぼくはそれを受け入れた。もう終わったことなんです」
「くそっ」

 禄朗は震えながら優希を抱きしめた。

「元をただせばおれのせいだよな。優希を苦しめたのも、Allyを追い詰めたのもおれがハンパなことをしていたから……」

 申し訳ない、と呻きながら禄朗は続けた。

「わかってくれるだろうと胡坐をかいて、優希を一人置いていったのが間違いだった。おれにAllyを責める資格はない。お前のことも、たくさん傷つけたんだよな……Ally」

 見つめられ、Allyはふるふると首を振る。

「好きだったんだ、憧れてた。でも、最初から禄朗は優希のものだったんだ」

 ポロリとAllyから透明なしずくがこぼれる。ケイトはそれをぬぐいながらAllyを抱きしめた。
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