茨ちゃんは勘違い
彼が目で追う奇面組のメンバーにうっかり入りそうな女は、先程からガハハと下品な笑い声を上げている。

一般人なら顔をしかめ、直視を避け、殺意がフツフツと煮えたぎるのだが、木更津は違った。

無邪気に他の学友と戯れる茨の姿に、顔を綻ばせ、釣られて笑みさえ浮かべる始末であった。

想像出来るだろうか?

学園屈指の美男子だった筈の木更津は、フェンスから顔だけ出して、女子達を視姦するまでに堕ちた。

端からみたら完全にド変態である。

しかし、その表情は何か悟りを開いたようにも見え、非常に満足気である。

茨に出会った事で、彼の内なる宇宙がビックバンを起こし、人間革命が成立していた。

そう、あり得ないぐらい理不尽に罵られ、一方的にNOを突きつけられ、飼い主に捨てられた猫のような扱いを受けたあの時。

思い出す度、彼は少しだけ身体に帯びた興奮、熱を感じていた。

この内から沸き上がってくる衝動、その意味を知りたいが為に今此処に居るのだが、彼はまだ自身の異常に気付いていない。

封じられていた聖域ならぬ性癖。

彼はM。

それも生粋のドMだという事を。
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