茨ちゃんは勘違い
億千万分の奇跡
木更津と安部の二人に抱えられた茨は、ひどくグッタリとしていて、意識も無いのか横たわったままピクリとも動かない。

「茨ちゃん、大丈夫!?返事をして茨ちゃん!!」

百合絵が呼び掛けながら頬を叩いてみたものの、反応が無い。

畑山と桜が青ざめる。

「どうしよう……茨ちゃん……返事してよぅ……」

百合絵が涙ぐみながら、途方に暮れる。

そこへ木更津が割って入って来る。

「ちょっと、どいて」
「え?貴方は……?」
「いいから!」

少し強い口調で睨まれビクリと身体を震わせた百合絵を退かすと、木更津は茨の頭を動かし気道確保をする。

そして大きく息を吸い込むと……。

全く躊躇いも無く、茨に口付けた。

その場に居た全員の動きが止まる。

──マウストゥマウス。本来溺れた人に対しては、この方法より心臓マッサージが効果的という話もある。

勿論、全く効果が無い訳では無いだろうが、それにしても──。

(──なんという──)
(勇気ある行動──)

ゴクリと木更津と茨以外の皆が唾を飲み込む。

確かに、凄い光景だ。

校内屈指の美男子が、校内屈指の不細工をマウストゥマウスしている。

茨程の不細工で性悪女を口移しで息を吹き込む等、一般人なら到底不可能かもしれない。

無理強いされたなら兎も角、自分から進んで人口呼吸。

木更津の勇気に拍手したくなる程だ。
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