茨ちゃんは勘違い
「ねぇちょっと、なんとか言ったらどうなの!?」
「ま、まぁ茨ちゃん……落ち着いて……」

百合絵の一言に、茨はこれまで見せた事の無いような面構えでキッと睨む。

「これが落ち着いてられると思う!?アタシのファーストキッスを強奪したのよこいつ!!」

ご、強奪っスか……。

まぁ確かにあらゆる意味で衝撃的な行為だったには違いないけれど、命の恩人にそこまで言うか普通……。

百合絵は頭を抱えると、再び沈静化していた茨への怒りの炎を内に燃やし始めた。

そこでそれまで下を向いて黙っていた木更津が、顔を上げて茨の方を向いた。

「……分かった」
「何が?」

茨は勢い任せで連ねた語句を、耳を傾ける事で一時中断した。

木更津が思いの外凹んでおらず、寧ろ何か覚悟を決め込んだ表情をしているのを見て、百合絵が眉をピクリと動かす。

「責任を取らせてくれ」
「どうやって?」

腕を組んで、全く納得する気配の無い茨に向かって、木更津はその瞳を真っ直ぐ見つめる。

静かに息を吐き、こう言った。

「来週の日曜、デートをしよう」
「そんなんで…………え?」



……

………

他一同、絶叫した。

「な、にぃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」










「ダカラ漏ラシテナイッテ、本当ダッテ」

この時、安部は完全に蚊帳の外に居た。
< 118 / 224 >

この作品をシェア

pagetop