茨ちゃんは勘違い
「兎に角、勘違いしてもらいたくないのは、アタシがあの警官がいたら即現行犯逮捕ものの強姦未遂野蛮人と夏休み中桐海サファリパークへ出掛けるのを楽しみにしている訳じゃないって事なのよ。ね?これ大事」
「……」

テーブルに置かれたクリームソーダだった氷のみのグラスに刺さったストローをズピズピいわせながら、茨はそんな事をツンデレ口調で口走っていた。

その話、これで何度目だろうと、指を折って数えながら溜め息を吐く百合絵。

二人は、町の一角にある喫茶チェーン店「珈琲家族」に来ていた。

珈琲家族は、少し昭和の匂いを漂わせ、チラホラとアンティークな小物が飾ってある若者から中年まで、幅広い年齢層に親しまれる茶飲み場である。

店内は昼を過ぎたせいか客の数も薄くなり、今は茨達と数組が談笑する程度に留まっていた。

「ただね、ただよ!ロハじゃないわよ、無料って意味でもないわよ?ただ……やっぱりアタシも乙女だから身嗜みはキチンとしなきゃって……だから……」

茨は俯くと、自分の胸のあたりで両手人差し指をツンツンし始める。

茨のこんな調子を端から見ていると、「しおらしい」の意味を広辞苑で引き、暗記したくなる。

気持ち悪いじゃ駄目?ねぇ駄目なの?

誰に言う訳でもなく、心の中で百合絵は呟くと、小さく伸びをした。
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