茨ちゃんは勘違い
「あ、そだ」

空になった弁当箱に蓋をして、包みに戻しながら桜が思い出したように呟いた。

「?何、どうしたの?」
「百合絵ちゃん、三時限目の数学どうだった?私、元々理数が苦手なんだけど、今回の期末はもっと無理な感じで……」
「心配しなくても、桜ちゃんぐらいの成績なら赤点はおろか、補習の心配なんかしなくても平気でしょ?」
「いや、心配なのは九十点以上取れているかどうかであって……」
「あ、そぅ……」

悪気は無いのだろうが、かつて「最高で金、最低で金」と言い放った谷亮子のような台詞に、百合絵のコメカミに青筋が浮き出る。

「塾とかに行って無いから、人より点数取るのって本当に大変!百合絵ちゃんはその点、塾も通ってて好成績だから安心だよね!」

と、桜が屈託の無い笑顔で笑う。

すいませんねぇ...塾に通わないと好成績にならなくて...。

悪気は無いのだろうが、純粋無垢というのは時に悪であると百合絵は思いながら、プラスチック製の箸に力を込めた。

めきゃめきゃと音を立て、今にも箸は無惨に粉砕してしまいそうだ。
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