茨ちゃんは勘違い
もう賢明であり空気の読める読者ならお気付きだろうが、百合絵はこの晃という青年に、一方的な想いを寄せている。

所謂、片想いというやつだ。

百合絵は、市トップクラスの成績が集う鳳凰に通う晃と毎朝同じ通学路を歩き、それを切っ掛けにあんな事やこんな事を…と、妄想を膨らましたはいいが、脳内で遊び呆けていたが為に、即撃沈(受験失敗)した。

それ故、滑り止めで受けた今の桐海に通う事になったのだ。

最初は、落ちた事に大層凹んでいた百合絵だったが、晃の励ましもあり、望まぬ結果を受け入れる決意をした。

だが、追い討ちをかけるように茨という悪夢の再来、黒酉という新たな地獄を入学一発目で味わった。

挫けるなという方が無理である。

「正直…上手くやっていける自信が無いです…」

声色が思いっきり黄色くなっているが、これは百合絵が特殊な声帯の持ち主だからであって、真似しよう等と思わぬ事だ。

それにまんまと騙された晃は、心底思い遣りを込めて、言葉をかけた。

“嫌な事や、悩みがあったらいつでも相談にのるよ?俺はユリちゃんの味方だからさ”

「晃さん…」

(ふふ…またこれで晃さんとの新密度アップ間違いないだわさ!)

…この腹黒さこそが、百合絵の真骨頂である。
< 40 / 224 >

この作品をシェア

pagetop