茨ちゃんは勘違い


……

………

ちょっとした泣き事から始まった長電話(主に百合絵が引っ張っているのだが)は、既に一時間半を過ぎようとしていて「新入生が二日目で遅刻はマズイだろ?」という晃の一言に、渋々百合絵も通話終了に同意した。

“ん、まぁ元気になってくれて良かったよ”

「あ…晃さんのお陰です…」

しおらしい清純派女学生風味の百合絵は、感謝半分下心半分の台詞をどこぞの腹話術師に操られているかのように吐いた。

“ははは…まぁ大した事はして無いけどね…”

「そんな事…無いです…」

素で言ってたら、間違いなく可愛い。

多分その筈なのだが、暗黒面に堕ちた女学生は、二度と帰って来る事は無いのが世の定めだ。

“それじゃあ、また電話するね”

「あ、あの…」

“ん?”

良い男というのは聞き返すその一言ですら、甘い媚薬のように恋する乙女を溶かしてしまうのは何故だろうか。

頼りなく、ダッサイ男が同じような仕草、台詞を言ったところで、雲泥の差がある事は間違いない。

ただ聞き返したという動作、それだけなのに、本当にそれが似合う男は限られている。
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